社会帝国主義者オランド(フランス)

近年のヨーロッパ左翼政党の傾向からすればじゅうぶん予測可能なことだが、社会党から選ばれたフランス新大統領のフランソワ・オランドが、シリアへの軍事介入を強く呼びかけ、さっそく社会帝国主義者としての馬脚を露わにしている。『ハンブルガー・アーベントブラット』紙が報じたところによれば、「フランス大統領オランドは中国とロシアに、シリアへの介入を説得する意向」、「火曜の晩〔5月29日〕にテレビチャンネル「フランス2」で発表」(Militärintervention in Syrien: Frankreich bereit, USA nicht, in Hamburger Abendblatt, 30.05.2012)。日本語でも関連記事が読める(たとえばロイター5月30日「仏大統領「対シリア軍事介入排除せず」、欧米は大使らを追放」)。

一方、アメリカでさえ今回はまだ軍事介入には慎重だ。米オバマ大統領のスポークスマンがあらかじめ述べていたところによれば「米は現時点でさらに軍事介入へと進むことを拒否」、それは「より大きな混沌と殺戮につながりかねない」からであるとのこと(『ハンブルガー・アーベントブラット』同上)。もちろん、米政府に純粋な平和主義を期待できるわけではない。低コストで早期に目標を達成して早期に撤退するといったリビア式の介入が、シリアでは難しくなりつつあるなかで、アメリカとってシリア介入へのイニシアティヴは(いまのところ)さほど強くないのだろう。ともあれ、シリア介入の現時点での急先鋒はオランドだ。「社会帝国主義」という用語は、まさにこのような人物にうってつけである。

それにしても、一般的により「左翼的」「進歩的」「人道的」などと見られる人士・勢力のほうが、紛争への軍事介入により積極的だというのは、いまにはじまったことではないにせよ、皮肉である。この恒常化したアイロニーにいちいち驚いていられないことに、あらためて驚きを喚起したい。

25日にはシリアの首都ホムスの近く、フーラ(al-Houla)で砲撃が起こり、多数の市民が死傷した。国連人権高等弁務官の報道官は、これを政府側勢力のしわざと見なし、国連安保理は「虐殺」と認定して非難している。また、フランス、オーストラリアを皮切りに、欧米諸国は国内シリア大使の追放を続々と決定している。

今回の攻撃がどちらの勢力によるものか、市民の死について誰にどのような責任が帰されるべきなのか。また今回の件にかかわらずシリアの情勢について、どのメディア報道に、どの側から、どの程度のバイアスがかかっているのか。それを判断することはきわめて難しい。だが前提として確認しておかねばならないのは、シリア「反体制派」はどう見ても、チュニジアやエジプトのような民衆蜂起ではなく、リビアと同様に、さいしょから武装した好戦的勢力だということだ。しかもそれはNATOやイスラエル、湾岸の君主制産油諸国による軍事的あるいは財政的なバックアップを(陰で、ではなく)公然と受けている(たとえばM.チョスドフスキー 速報およびOnline Interactive Bookを参照)。今年2月から進められていた国連の和平プラン(いわゆるアナン・プラン)も、反体制側の戦闘行為もふくめたすべての責任をシリア政府側に課すもので、反体制側に肩入れしている当のNATOの責任はさいしょから問題にされていない

要するに、シリアの情勢は、一方的な弾圧や虐殺などではなく、当初から、公然たる「軍事介入」のあるなしにかかわらず、すでに戦争なのである。しかもこの戦争に手を汚しているのは、シリア政府や反政府勢力だけでなく、後者をバックアップしているNATO諸国、トルコ、湾岸君主諸国やも含まれる。だとすれば、当然ながらシリアへの現在見られるすべての介入が批判されねばならない。もちろん軍事介入などもってのほかだ。

.



コメントを残す